「キスして?」
哀しみを隠すように
俺の心を試すかのように
は俺に問い掛けた。
「えらく早起きですね…もうちょっと寝てなよ?」
そう言いながら
俺はの髪を撫でた。
君が昨日俺に言った言葉が
頭から離れなかった。
『私のこと…もういらないとか…言わない?』
あの時
君が流した涙の寂しさ。
思い出しただけで
君を抱きしめずにはいられなくなる。
あの日の俺を
思い出さずにはいられなくなる。
「和也…?」
「眠ればとか言っといてなんだけど…ゴメンね。
ちょっとだけこうさせといて。」
が昨日俺にしたように
俺は隣り合わせのを抱きしめた。
いや、抱き着いたと言った方が正しいのかもしれない。
俺がを必要としない訳がない。
俺にはがどうしても必要なんだ。
の全てが必要。
がいなかったら
あの日俺はこの世から居なくなってたかもしれない……。
「ねぇ…」
「ん…?」
「俺のこと…好き?」
そう聞くと
は何か強い決心を固めるかのように
深く深呼吸した。
「好き…だよ?」
そう答えるが
とてつもなく愛おしくなって
「…さっきキスしてっつったよね」
「え?」
俺はをこちらに向けさせて
キスをした。
そして俺は思った。
が俺に全てをさらけ出してくれた今
俺もに話すべきなのだろうか。
あの日。
ボロボロに泣きじゃくっていたに
俺が声をかけた日。
俺になにがあったのかを
君は知らない。
これを話して
事実を知ったら
君はどう思うかな。
俺に失望する?
逆に俺のことを、「いらない」と言って切り捨てる?
それも仕方がないかもしれない。
でも一つだけ覚えていて欲しい。
俺は今となっちゃ
本気でに惚れてて
本気でを愛してる。
あの日の俺は
の事を
『俺より不幸せな人』として見ていた気がする。
そして多少の同情と憐れみの感情を交えて
を愛した。
でも今は違う
しつこいようだけど
俺はが大好きなんだ。
人間はなんだか複雑に出来ているようで
こうなった理由はよく解らない。
身勝手で、我が侭な話だけど
これは本当の話。
いつか…
にも
俺にも
『心の余裕』ってのが出来た時に話すよ。
でももしかしたら
その時にはもう幸せ過ぎて忘れてるかもしれない。
それもそれとしていいと思う。
今はとりあえずこのまま朝日を浴びながら
二人でぐっすり眠ろう。
次に目を覚ました時には
もっともっと『心の余裕』が増えて
エネルギーになればいい。
俺はそう思った。
そして何時間経ったのか
俺はふと目を覚ました。
「…?」
俺の隣りで寝ていたはずのが居なかった。
「…どこ?」
俺は言いようのない不安に駆られて
ベットから抜け出した。
そして辺りを見渡すと
はベランダにいた。
「…?」
は携帯で誰かと話しているようだった。
後ろ向きになっていて
表情は解らなかった。
電話中なのを邪魔するわけにもいかず、
なんだか窓を叩いて気付かせる気にもなれなくて
俺は様子を伺っていた。
すると数分後
が俺に気付いて
直ぐさま電話を切った。
「和也…おはよう」
そう言いながらは部屋に入った。
どこか俯き加減なに俺は
「誰と話してたの?」
と聞いてしまった。
「うん……。」
その
なんと言ったらいいのか分からないの表情に
俺はある事が頭に浮かんだ。
「前の…彼?」
そう俺が尋ねた途端
の顔が桃色に染まるのが分かった。
そしてそれと同時に
俺の『心の余裕』が
小さく小さく縮んでいくのが分かった。
「何話してたの?」
ここまで聞いちゃう俺って
なんて嫉妬深いのだろうか。
「よりを戻さないかって…」
それにまたなんで素直に答えるの?
俺の立場無いじゃん。
「それで…どうすんの?」
「え?」
「より戻すの?」
そんなこと聞きたくないのに
なんで俺こんなこと聞いてんだろう。
余裕が無くなった瞬間、俺の何かが蘇ってきた。
「そんな……。戻さないよ!
あの人とは終わったんだし。
それに私は…和也が好きだもん」
「でも好きだったんでしょ?」
「え?」
「フラれて道で泣き崩れちゃう程…好きだったんでしょ?」
「そんな……。」
俺があまりににとって予想外の発言ばかりで
はついに泣いてしまった。
嫉妬心が増えて
増えて、溢れそうになると
俺の中のもう一人の俺が現れる。
をもっと責めたくなる。
『行けばいいじゃん』って、突き放したくなる。
来るな。
来るな。
消えてくれ。
あの日を境に現れた
もう一人の悪魔よ。
----第5話へ続く-------------
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