クラスの席替えをして早5日。

俺の学生生活にまた一つ、楽しみが増えた。



























キミは夢の中









































「これをy=ax+bに代入して、aとbの値を出します。そして、え〜…」




まるで、お経を唱えられてるような授業時間。


いつもなら構わず爆睡に突入するところ、

俺の目はばっちり冴えていて

その目線は、隣の席に向けられていた。





視線の先にはクラスメイトの

の意識は、半ば数学から掛け離れていた。


肘をついて、なんとかギリギリ俯せにならないように耐えている状態だった。






幸運な事に俺の席は窓側の一番後ろで

誰に気を使うまでもなくを観察する事が出来た。










(あとちょっと!…お!寝ちゃう!)







必死に眠気に耐えながらも

コクン、コクンと顔を揺らす

可愛くて、面白くて仕方がなかった。








休み時間のはというと

結構明るい子で、たまに笑い声が教室に響くと

薄暗い天気の日でも、教室全体が晴れ渡るようだった。




ってこれは俺がを好きだから、そう思うんだろうけど。







一方で、授業中はというといつもこの調子で

それでも、このを見れる場所にいるのは俺だけだから

いつも少しだけ優越感に浸りながら見るのが日課になっていた。












パタン…。









「あ……」





そしてそうこうしているうちに

はとうとう睡魔に勝てず

まるで机に吸い寄せられるように俯せになってしまった。






(あー…寝ちゃったよ)






が寝てしまって、顔が見えなくなったのを確認した俺は

今更授業を受ける気にもなれず、自分も居眠りしてしまおうと体制を崩した。





その時。








「おい!そこで寝てんの誰だ?」









に気付いて、教卓から俺に聞いて来た。







(あ…ヤバ…)




「え?あ、いや…」






は校内でも恐ろしい教師として通っていて

少しでもややこしい事に関わると

面倒な事になるのは決定的だった。








「いいから松本、起こしてやれ!」


「あ…はい」



スヤスヤ寝てるを起こすのは少し気が引けたが、

これもの為だ。そう自分に言い聞かせていた。










、起きろ」



少し控え目に肩をぽんぽん、と叩いて、の名前を呼んだ。


それでもは全く起きる気配がない。



俺は繰り返し数回、の肩を叩くが、

それでも起きようとはしなかった。




「松本!起きないのか?」


「あ…いえ…その」









その間にもクラス全員の視線はに向けられていて

俺はどうする事も出来ずにいた。すると…。








「ん…んー」








が、俺にしか聞こえないくらいの小さな寝言を呟いて

顔をコチラに向き返した。













「………………」













「おい松本!起きないのか?」



はそう言って、席に近づこうとした。


そして俺は咄嗟に








さん、具合が悪いそうです。」



「具合が…?じゃあ保健室に」

「動けないくらい辛いんだそうです。後で休み時間に僕が連れていきます。」




「…解った。ちゃんと連れていけよ」




「はーい」と俺が返事した後

は普通通り授業を進めた。







「はぁ……」



ホッと肩を撫で下ろし

一仕事終えた俺は、またを見て、

小さくため息をつくと同時に、笑みを零した。





隣に座る人の寝顔は

夏の太陽の光に照らされて

いつにも増してキレイだった。









(子供みたいな寝息たてちゃってさ……)








隣にいる俺がこんな目にあっているとも知らずに

それでもなお眠り続けるを見ながら


この寝顔は誰にも、壊させたくないと思う自分がいた。




このもどかしい気持ちを

どうやって伝えればいいのだろう?







俺は数学の方程式を解くのも忘れて、

そればかりずっと、考えていた。










そして俺の右手は、の机へと近づいていった。


























“今度また寝てたら、チューするからね。 潤 ″









































不器用な文字で書いたその言葉は、

夏の気まぐれなんかじゃない。


正直な気持ちが書けない臆病者だけど

この気持ちに気付いてくれたら、嬉しい。






















蝉の声がこだまする中、

窓際で、夏の陽射しを浴びて

待ち望んでいるのは、授業の終わりを告げるチャイム。





に気持ちが伝わる合図だった。










































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